OHサポート株式会社
代表 今井 鉄平 (産業医)
近年、化学物質の管理手法に関する法改正が行われ、従来の法令順守型から自律管理型の管理に大きな転換を迎えようとしております。自律管理型の手法は化学物質の管理だけでなく、メンタルヘルス・感染症対策など、様々な場面で応用が可能なものです。今回は自律管理型の健康管理手法について概説したいと思います。
まず、自律管理型についてですが、『ハザード情報など、すでにエビデンスがある情報を利用してリスクアセスメントを行い、リスクが許容できない場合には、エビデンスが存在する対策を行ってリスクを低減する手法(森晃爾編. 産業保健ハンドブック)』と定義することができます。
次に、自律管理型の健康管理を行うメリットについてですが、法令順守型ではカバーできない課題にも対応できるということがあげられます。例えば、メンタルヘルス対策・仕事と病気の両立支援など、必ずしも法令で規定されていないが企業にとっては重要なトピックが多々あります。また、企業にとって優先度が高い健康課題に対して、無駄がなく効率的な対応ができるというメリットもあります。例えば、化学物質管理に関する法令では、ほとんどばく露の恐れがないような作業でも、特殊健診や作業環境測定の実施を行わければならないこともあります。このように自律管理型では、企業を取り巻く様々な健康課題に対して、リスクアセスメントに基づき優先順位を決めて、効率的にそのリスク低減策をとっていくことが可能となります。
リスクアセスメントでは、ある健康課題により生じる健康障害の重篤度と、その発生の可能性に応じてリスクを見積もっていきます。具体的な手法として、例えば、化学物質管理ではクリエイト・シンプル(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_3.htm)といったツールがよく使われております。また、感染症対策では、①病原性の強さ、②不特定多数の人と接するか、③人との距離をとれるかなどでリスクを見積もることが可能です。見積もったリスクが企業として許容できないものであれば、化学物質管理では局所排気装置の設置、感染症対策ではマスク着用・パーテーションの設置などのリスク低減策を行っていくことになります。リスクの見積り・優先度の設定・リスク低減措置などの具体的な進め方は決まったものがなく、企業ごとに検討していくことになります。必要に応じて、産業医など外部の専門家にも相談しながら、自律的な健康管理を進めていきましょう。