OHサポート株式会社
代表 今井 鉄平 (産業医)
~睡眠と心身の健康~
睡眠には心身の疲労を回復する効果があり、睡眠が量的に不足したり、質的に悪化すると生活習慣病のリスクを高めてしまうことがわかっております。また、睡眠に関する問題は、メンタルヘルス不調とも密接な関係にあり、問題が続くことでストレスを感じやすくなり、うつ病などのこころの病を起こしやすくします。さらに、作業能率を低下させ、生産性の低下やヒューマンエラーなどを招くことにもつながります。
~睡眠の向上のために~
良い睡眠をとるためには、量・リズム・質の3点が重要となります。睡眠の向上のためにどのようにしたらよいか、それぞれのポイントから紹介します。
経済協力開発機構(OECD)が2021年に発表したデータでは、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で加盟30カ国の最下位となっており、日本人は全体的に睡眠不足であることが示唆されます。働く世代の睡眠時間はこの数字よりもはるかに低いことが予想されますが、多忙な毎日の中で少なくとも6時間以上の睡眠をとることが推奨されています。また、昼休みに15分程度の短時間の仮眠を取ると、午後の眠気が改善されます。
睡眠は体内時計という仕組みにコントロールされており、体内時計の時間がずれたために不眠や眠気が起こすことも少なくありません。朝の光と食事は体内時計を整えるため、朝は一定の時間に起きてしっかりと朝食を摂ることが大事です。また、夜遅くにスマートフォンやパソコンのディスプレイを見ることは避けましょう。
適度な運動で、深く、長く眠れるようになります。20~30分のウォーキングを週2~3回行うだけでも効果があります。また、避けた方がよい習慣として、夕方以降のカフェイン摂取・寝酒があります。寝酒は寝つきを良くしますが、眠りを浅くして、早く目が覚めるようになります。寝室の環境も大事です。寝室の明るさは3ルクス以下(月明り程度)、温度・湿度も季節に応じて心地よいと感じられる程度に調整、騒音が気になるときは耳栓が効果的です。
眠れないことが続く、眠っても日中の眠気や居眠りで困っている場合は、うつ病などの病気が背景にある場合があります。いつもと違う睡眠が続く、眠れなくて困ることが続くときは、我慢せずに早めに身近な専門家(医師等)に相談しましょう。
~睡眠向上のために職場でできること~
睡眠向上のためには従業員個々人の取組みが重要であることは言うまでもありませんが、職場での取り組みが重要な場面もあります。
長時間残業が連続して、睡眠時間の確保が難しい従業員もいることでしょう。睡眠不足が蓄積することで、作業効率・生産性の低下を招き、さらなる長時間労働を強いられるという悪循環に陥っていることもあるかもしれません。6時間以上の睡眠時間が確保できるよう、日頃から適切な労働時間管理を職場で行っていくことも重要といえます。
一方、睡眠時間は確保できるのについつい夜更かしをしてしまう、生活習慣の問題で睡眠のリズムや質を悪くしてしまっている従業員もいることでしょう。特に新入社員など、社会人としての基本的な生活習慣が身についていないケースもあるかもしれません。従業員向けに、産業医・保健師等の外部資源を活用して、睡眠衛生教育を実施することも大事でしょう。その際、健康づくりのための睡眠指針2014(厚生労働省)にある睡眠12箇条を参考に伝えていくと効果的です。
参考文献
・厚生労働省.「健康づくりのための睡眠指針2014」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf